【基礎から学ぶ】認知症ケアで最も大切なこと「パーソン・センタード・ケア」とは?

認知症ケアの基本を学ぶ:尊厳を大切にする介護の第一歩

認知症は単なる記憶障害ではなく、その人の人生全体に影響を与える複雑な症状の集まりです。しかし、適切なケアと理解があれば、認知症の人も豊かな人生を送ることができます。この動画では、認知症ケアの歴史的変遷から、現代のケアの核心である「パーソン・センタード・ケア」まで、その基本と理念を解説しています。

1. 認知症ケアの歴史的変遷と「パーソン・センタード・ケア」の重要性

1970年代から80年代にかけて、認知症の人は「管理の対象」とされ、薬物による鎮静や身体拘束が一般的でした。その後、施設中心のケアへと移行しましたが、現代では「個人(パーソン)の尊厳を重視するケア」が最も重要視されています。

このケアの中核にあるのが、イギリスの心理学者トム・キットウッドが提唱した「パーソン・センタード・ケア」という考え方です。これは、認知症の人を「症状の集まり」としてではなく、一人の人間として全人的に捉え、その人の生活歴、価値観、好み、関係性などを深く理解し、尊重することを重視します。

パーソン・センタード・ケアの実践には以下の4つの要素があります。

  • 共感:相手の感情や経験を理解しようと努める。
  • 尊重:その人の意思や選択を最大限に尊重する。
  • 個別性:一人ひとりに合わせたケアを提供する。
  • 自立支援:「自信」と「生きがい」という感情的な側面を加え、ケアの目的をより明確に伝えます。

2. 行動・心理症状(BPSD)への理解と非薬物的介入

かつて「問題行動」と呼ばれていたものは、現在では「行動・心理症状(BPSD)」として捉えられています。例えば、徘徊は単なる問題行動ではなく、何かを探している、不安を感じているなどの理由があると考え、その行動の背景にある思いや環境からの影響を理解しようと努めることが重要です。

BPSDへの対応には、非薬物的介入が推奨されます。これには、環境調整、コミュニケーションの改善、適切な刺激の提供などが含まれ、薬物療法は非薬物的介入で改善が見られない場合に検討されます。これは薬の副作用リスクを最小限に抑え、その人らしさを保つためです。

3. 安全確保と尊厳のバランス、多職種連携と家族との協力

質の高いケアを提供するためには、安全の確保と個人(パーソン)の尊厳の保証のバランスが重要です。過度な安全確保は自由を奪う可能性がありますが、リスク管理も不可欠です。個々の状況に応じた柔軟な判断が求められます。

また、医師、看護師、介護士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士、ソーシャルワーカーなど、様々な専門職が協力し、統合的なケアを提供することも欠かせません。家族からの情報も重要であり、家族自身の支援も認知症ケアの一部です。

4. 日常生活での実践と継続的な学び

認知症ケアの理念は、日々の実践の中で生かされてこそ意味があります。例えば、食事の介助では、その人の好みや習慣を尊重し、自分で食べる能力を最大限に生かす工夫をします。入浴介助では、羞恥心に配慮し、その人のペースで進めることが大切です。

認知症の人の意思決定支援も重要です。認知症があってもその人なりの意思や希望があり、それを丁寧に聞き取り、尊重することが求められます。また、できないことに注目するのではなく、「残存能力」を活かすことに焦点を当て、趣味や役割を通じて自信や生きがいを保つ支援を行います。

居心地が良く、安全で分かりやすい環境作りや、個々の生活リズムを尊重した柔軟な対応も、ケアの質を高めます。コミュニケーションにおいては、ゆっくりと分かりやすく話す、非言語的コミュニケーションを活用するなどの工夫が効果的です。

5. 社会全体で目指す「認知症フレンドリー社会」

認知症ケアの理念は、介護職だけでなく社会全体で共有されるべきものです。認知症に対する偏見や誤解を解消し、認知症の人も地域社会の一員として尊重される「認知症フレンドリー社会」の実現を目指すことが大切です。そのために、地域への啓発活動や認知症サポーターの養成などが重要な取り組みとなります。

認知症ケアの質を高めるには、継続的な学びと日々の実践が不可欠です。